肝臓がんについて
肝炎ウィルスに感染すると、発症により慢性肝炎になり、進行し肝硬変へと移行してきます。その後、約10・20年程で肝臓がんを発症する危険性がとても高くなります。これを原発性肝がんといい、他の臓器に発生した、がん細胞が肝臓に転移するする転移性肝がんと区別されます。原発性肝がんの95%が肝細胞がんで、そのうちC型肝炎ウイルス保持者が70%、B型肝炎保持者が20%となっています。
肝臓は、臓器の中で唯一、切り取っても再生する能力をもっています。また、余力にも富み健康な人なら70%まで切除可能です。肝臓がんの治療をしても、もともと肝炎や肝硬変であることは変わらないため、切除した場合でも5年以内に約75%の患者でがんが再発してしまいます。また、肝臓には、体中の血液が集まるため、他の臓器のがん細胞が血液に乗って流れ込み、転移しやすい性質があります。
肝臓には痛点がなく「沈黙の臓器」と呼ばれ、初期症状としては痛みなどないため、腫瘍そのものが大きくなるか、もしくは進行して他の症状が出ないと発見が遅れやすい傾向にあります。感染ウイルスの感染原因はいろいろとりざたされていますが、輸血や手術など特定できるのは三割で、原因がわからないことのほうが多いため、一度は肝炎ウイルス検査を受けることをお勧めします。もし陽性であっても、肝細胞がんは経口薬やインターフェロンの投与によって発症を大幅に予防することが可能です。
肝臓がんの治療方法について
肝臓がんの治療方法は、腫瘍の大きさ、腫瘍の数また肝機能の状態により治療方法が選ばれます。外科的療法で行う部分肝切除や移植、そしてラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法などのいくつかの内科的療法があります。一回の治療効果が最も大きいのは切除ですが、他の治療に比べて肝臓の余力が必要となります。
日本肝臓学会は、一昨年に肝機能の状態、腫瘍の数、腫瘍の大きさの三点を勘案して治療方法を決める最新の「科学的根拠に基づく肝臓癌診療ガイドライン2009年度版」を発表しています。
ガイドラインでは、肝障害が軽度で、腫瘍が一つだけであれば、大きさに関係なく切除を第一とし、肝障害の程度が軽度でも、腫瘍が二つ、もしくは三つになると、切除だけでなく、ラジオ波焼灼療法や肝動脈塞栓療法も考慮されるとしています。
部分肝切除は、手術により悪い部分を切り取る方法です。全身麻酔で、開腹手術になりますので手術時間は手術の方法によって異なりますが、およそ3〜10時間程度かかり約1ヶ月程の入院期間が必要となります。ただし、肝硬変などが進んでおり肝臓の機能が悪い場合は、手術に耐えられないばかりか、手術後、残った肝臓がうまく機能せずに肝不全に陥る危険があるため手術はできません。
ラジオ波焼灼療法は、最近、新しい治療法として注目されています。エコーで見ながら肝臓がんに直径約1.5mm程度の電極を挿入し、マイクロ波よりも周波数の低いラジオ波を流し約100℃前後の熱で焼いて、肝臓がんの細胞を壊死させます。入院期間は約2週間で治療を受ける患者さんの体への負担は少ないのですが、まだ新しい治療法のため健康保険が適用されていません。治療を行う病院施設によって異なりますが、約数十万円の治療費がかかる所もあり事前によく担当医師と相談が必要です。
肝臓は肝動脈の他、門脈からも血液を介し栄養を供給しています。肝細胞がんの場合、肝動脈からのみ血液を供給しているため、肝動脈に詰め物(塞栓)をする事で肝細胞がんだけを壊死(細胞が死ぬこと)させる治療が肝動脈塞栓療法です。
肝がんでは、全身性化学療法(抗ガン剤治療)や、放射線療法はあまり行われません。ただ、がん細胞をねらいうちする分子標的薬ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)が2009年5月に保険適用となり、確実に治療効果を上げています。この薬は全身の状態を低下させずに、がん細胞の増大を抑制する効果があるとされています。
肝がんは、唯一「移植」が認められていますが、がん治療というよりも、肝機能が急激に低下した重度の肝不全の患者への治療法という色合いが強く、ドナーの問題もあり、今は一般的ではありません。
現在、大腸がんからの転移は、原発性肝がん同様に切除が行われ、その治療効果が認められています。大腸がんの分子標的薬であるベバシズマブ、セツキシマブ、パニツムマブなどの抗がん剤の進歩により、切除できないような肝転移病巣を小さくして切除することも可能になってきています。しかし、大腸がんの肝転移は、肝細胞がんとはがんの性質が根本的に異なるため、ラジオ波焼灼療法、肝動脈塞栓療法は適しません。