大腸がんについて
大腸がんには大きく分けると結腸がんと直腸がんの二つがあります。盲腸からS状結腸までにできるがんを結腸がんと呼び、直腸から肛門までにできるがんを直腸がんと呼びます。逆に二つをあわせて大腸がんと呼びます。
どちらも腸の粘膜から発生する悪性の腫瘍です。以前、日本人の大腸がんは直腸がんが多かったのですが、近年は食生活等の変化により欧米人の様に結腸がんが多くなってきており、大腸がん患者は増加の一途をたどっています。死亡率は近年、頭打ちになりましたが、それでも、全国で年間四万人以上が死亡しています。
大腸がんの治療方法について
大腸がんの治療には大きくわけて、内視鏡治療、外科手術、腹腔鏡手術、化学療法などがあります。大腸がんの場合病巣を完全に切除できれば根治の割合は非常に高く、初期の大腸がんの治療においては内視鏡治療で切除することが大半です。
大腸がんの内視鏡治療で行われる切除法は、ポリペクトミー、EMR(内視鏡的粘膜切除術)、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の三種類になります。ポリペクトミーは、隆起したキノコ状(ポリープ型)の病変にワイヤをかけて焼き切る治療法です。EMRは、病変周辺部の粘膜に生理食塩水などを注入して浮き上がらせ、ワイヤをかけて、高周波の電流で焼き切ります。ESDは、電気メスで病変下部を剥離して取り除きます。ポリペクトミー、EMR、ESDの順で、治療法が進歩してきました。
隆起した病変であれば、ポリペクトミーで容易に切除できます。平坦な二センチ以下の病変なら、EMRで切除するのが基本的なやり方になります。ESDはそれよりも大きな病変で検討することになります。
大腸壁は非常に薄く、大腸は曲がりくねっていて、その内腔は狭い状態です。そうした特長を持つ大腸をESDで治療するのは非常に難しくなります。そのため、大腸がんのESDに習熟している医師はまだ多くありません。また、食道がんや胃がんに対するESDは、保険が適用になりますが、大腸がんに対するESDは先進医療の位置づけになります。先進医療は登録した医療施設で、登録した医師だけが患者の了承を得て行え、費用は患者の自費負担となります。大腸がんに対するESDは、まだ課題は多いですが、高い技術を持つ医師が行えば、患者のメリットは大きなものとなります。たとえば、これまでなら開腹手術を受けて人工肛門にならざるをえなかった直腸がんの患者でも、ESDで治療できれば、人工肛門を回避できる可能性が高まります。
外科手術も進歩してきています。なかでも、大腸がんの腹腔鏡手術は、腹壁に数ヶ所の小さな穴を空けて、腹腔鏡や電気メスなどを入れ、モニター画像を見ながら、がんを切除する手術方法です。腹腔鏡手術と通常行われる開腹手術を比較すると、腹腔鏡手術のほうが後遺症が少ない傾向があります。特に瘢痕(はんこん)ヘルニアと腸の癒着が少なくなります。瘢痕ヘルニアは切開箇所から腸が飛び出してしまう病態で、これが起きますと、運動することが難しくなるなど、日常生活に支障をきたすようになります。開腹手術は切開する箇所が大きい分、瘢痕ヘルニアが起こりやすくなります。また、腸の癒着から腸閉塞を起こすこともあります。
腹腔鏡手術にはメリットが多いとなると、大腸がんの手術は腹腔鏡手術で受けるのが良いと思えますが、それほど単純ではありません。その理由は、腹腔鏡手術の対象が早期がんなど、それほど進んでいない大腸がんに限定される点です。
化学療法についても、大きく進歩しています。FOLFOXやFOLFIRI(どちらも三つの抗がん剤の併用療法)などを進行した大腸がんの手術後に行うと、生存期間が延びるようになってきています。