胃がんについて
胃がんは、胃の中に粘膜や分泌物が出る導管の細胞から発生します。はじめは約30〜60ミクロンの小さなものですが、年単位の時間をかけて約5mm程度の大きさになり発見が可能となります。
胃の粘膜の中を横に広がっている間はいいのですが、粘膜下層→固有筋層→漿膜下層→漿膜へと胃壁の外に向かって徐々に浸潤(しんじゅん)と呼ばれる広がりをしてくると、他の臓器やリンパ節にも転移しやすく、また胃壁で成長したがんは近くの食道や十二指腸にまでも広がり、予後が悪くなっていきます。
胃がんは、日本人に非常に多いがんです。罹患者数はがんの中で、男性では一位、女性では三位で、男女合わせると最も多くなります。そうした背景もあり、日本では、胃がんの治療技術はとても進み、世界有数のクオリティーを誇ります。
胃がんの治療方法について
胃がんの治療方法は現在「内視鏡治療」「外科手術」「化学療法」が三本柱ですが、これらに「放射線療法」が加わりそうな動きがあります。効果は限定的ですが、放射線療法が今後、胃がん治療の四本目の柱になっていく可能性が期待されています。
胃がんは早期に発見された場合、切除手術もしくは内視鏡治療により完全に切除が可能です。そして、完全に切除されたときの胃がんの再発の確率は非常に低くなると言われています。そのため、胃がん治療の原則としては、確実にがんの部分切除を行うことになります。がんの転移の可能性の殆どないと考えられる早期胃がんでは、積極的に縮小手術が行われます。
内視鏡治療には、EMR(内視鏡的粘膜切除術)、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)の二種類があります。EMRは病変部周辺の粘膜に生理食塩水などを注入して浮き上がらせ、ワイヤをかけて、高周波の電流で焼き切ります。一方のESDは、電気メスで病巣の下を剥離して取り除きます。現時点ではESDが内視鏡治療では、最も進んだ治療方法です。
EMRで切除できるがんは、胃の粘膜にとどまっているがんで、がんの型は分化型、大きさは原則として二センチ以下になります。しかしESDでは、胃の粘膜内にとどまる分化型のがんであれば、十センチ程度の大きさでも切除することができ、がんの大きさに制約はありません。またESDはEMRに比べて、高い技術が要求されますが、今では全国にかなり普及し、技術を習得した医師も増えています。そのため、病巣の大きさにかかわらず、内視鏡で治療できる早期の胃がんであれば、ESDを行う病院が多くなりました。
ただし、データの蓄積がまだ不十分なため、ESDを含めた内視鏡治療が標準治療とされるのは、今でもがんの大きさが二センチ以下という条件がついています。胃がんの早期発見が進んだことに加え、ESDが普及したこともあり、内視鏡治療だけで胃がんが治る割合は、胃がん全体の2〜3割まで多くなってきています。
外科で行われる切除手術でも、低侵襲の治療(体への負担が小さな治療)が実施されています。その代表は腹腔鏡手術です。胃がんの手術は通常、みぞおちからへそあたりまで腹部を切開して行われ、これは開腹手術と呼ばれます。傷口は15〜20センチ程度になります。一方の腹腔鏡手術は、まず1センチ程度の穴を腹部に5〜6ヶ所あけます。その穴から腹腔鏡や手術器具を挿入し、モニターに映し出された腹部内部の映像を見ながら手術を行います。そして、胃の周辺の組織を胃から外して、腹部を5センチほど切開し、そこから胃を引き出して切除し、残った胃と小腸をつなぎます。おなかの中で行うことは、基本的に開腹手術と同じになります。胃がんに対する腹腔鏡手術はまだ標準治療ではなく、臨床試験の位置づけですが、年々増えてきています。
開腹手術と比べて、腹腔鏡手術のメリットとしては主に以下の四点が挙げられます。手術による傷が小さく、切開部の痛みも比較的小さい。出血が少ない。入金期間が短い。手術後の呼吸機能の回復が早い傾向があり、手術後、肺炎になるリスクが低くなる。
進行胃がんに関しては、手術後にTS−1(一般名はテガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム)などの化学療法(抗がん剤治療)が行われるようになってきました。TS−1を服用することで、再発率が下がり、生存率が上がるというデータもあり、今では「TS−1は進行胃がんのキラードラッグ」となっています。化学療法は抗がん剤に詳しい腫瘍内科医が行うことが望ましいですが、日本ではいまだに外科医が行っているケースが少なくありません。薬剤の数が増え、抗がん剤を使った治療方法も進歩する中で、腫瘍内科医のさらなる増員が期待されます。